デザインの裏側に:トルピードバットのエンジニアリング

野球は多くの伝統に彩られたスポーツですが、ときどき、ダグアウトではなく機械工場にありそうな道具が登場することがあります。その最新の例がトルピードバット(torpedo bat)です。
ボウリングのピンのような形状のバレルと、機械工でも二度見しそうな鋭いテーパーを備えたこのバットは、メープル製のメカニカルな珍品です。元々は試合での使用は想定されておらず、MLBの先進的なコーチやスポーツサイエンスのチームの間では、トレーニングケージで着実に存在感を高めています。
物理に基づく設計やスイングの力学、バランスポイントが動作に与える影響にご興味があれば、ぜひ注目していただきたいアイテムです。
このデザインはどこから生まれたのか?
トルピードバットは、話題づくりのためのマーケティングではなく、生体力学と分析に基づいた設計です。このアイデアは、ニューヨーク・ヤンキースの打撃コーチであるジェームズ・ローソン氏と、少数のアナリストやスポーツ科学者によるチームによって形になりました。ESPNの記事によれば、チームはバットコントロールやバレルの安定性を向上させる新たな方法を模索していたといいます。
グリップや構えを調整するのではなく、道具そのものに着目したのです。
その結果生まれたのが、密度の高い球根状のテーパーを持つバットでした。魚雷のようでもあり、麺棒のようでもあります。このバットは、バレル上部に質量を集中させつつ、手元に向かって一気に重量を落とす設計になっています。現在のところ試合中の使用は認められていませんが(※訳注:MLBは2025年3月30日、このバットがリーグ規定に違反していないことを確認したと発表しています。日本のプロ野球で���承認に向けた調整が進んでいます)、MLBの選手たちは春季キャンプやバッティング練習など、トレーニングや試合前のルーティンで使用しています。
もし、バッターボックスに入る前にストライプのユニフォームを着た選手がテーブルの脚のようなバットを振っているのを見たことがあれば、それは見間違いではありません。
形状がスイングの力学に与える影響:エンジニアにとって興味深いのはここからです
その膨らんだトップエンドは単なる見た目のためではなく、慣性モーメントに大きな変化をもたらします。従来のバットは重量が比較的均等に分布していますが、トルピードバットはバレルのスイートスポット付近に質量を集中的に配置しています。その結果、スイング中の負荷が増し、インパクト時のエネルギー効率が高まりますが、それだけバッターには高いコントロール能力が求められます。
フィードバックの応答は非常に早くなります。バランスの崩れたスイング、緩慢な手の動き、一貫性のないバット軌道は、ほぼ即座に露呈します。それは、一般的な車に高性能カムを搭載するようなもので、雑な操作を受け付けません。
このバットの独特な形状は、打者が身体の連動性を保ちながら、スイング中に打球ゾーンで加速する感覚を養うトレーニングにもなります。タイミングとパワーを鍛えるために、重いバットと軽いバットを交互に使用する「オーバーロード/アンダーロード・トレーニングプログラム」の一環として活用されています。トルピードバットは標準とは異なるバランスポイントを持っており、選手がバットの感覚により一層集中するよう促します。
製造上の課題:製造の観点から見ると、これは一般的なビレットバットではありません
極端に強調されたテーパー形状は、特にメープルやバーチといった広葉樹を使用する場合、特注の旋盤加工や専用の工具パスが必要になります。バット製造に使われる従来のCNCプログラムでは、このような急激な直径の変化に対応するための調整が求められます。また、形状が機能にどのように直接影響を与えるかを示す、非常に良いケーススタディでもあります。ここには設計意図がはっきりと表れています。
この記事とあわせて3Dモデルも共有しておりますので、ぜひ形状を詳しくご確認ください。お使いのCADプラットフォームに読み込んで、形状をチェックしたり、バランスポイント、スイングの力学、あるいはテーパーに沿った材料応力を分析したりするためのシミュレーションを実行してみてください。
見た目が奇抜でも重要な理由
たしかに、トルピードバットは見た目で高評価を得るタイプではないかもしれません。しかし、これは力学的原理に根ざした、機能的なデザインの優れた例です。また、重量や形状のわずかな変化が、パフォーマンスにどれほど有意義な影響を与えるかを示しています。
これは従来のバットに取って代わることを目的としているのではありません。選手たちがより賢くトレーニングできるようにするためのツールを開発しているのです。それは、私たちが日常的にエンジニアリングシステムで応用している「慣性の調整」「バランスの移動」「フィードバックループの最適化」といった原理を活用しているのです。
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トルピードバットと同様に、優れた設計は物理の理解から始まります。そして、ほんの少しの好奇心も大切です。

